加納総合病院

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脳神経外科

脳血管内治療(手術)とは?

血管の中からカテーテルという細いチューブを使って、頭頚部の細くなってしまった血管を広げたり、出血をふせぐために血管をつめたりするといった、「頭を切らずに行える」治療です。

脳血管内治療の歴史

1970年代から脳の血管にカテーテルという細いチューブを誘導して脳血管の治療を行う試みがなされてきました。脳血管は非常に細く走行も複雑なため、カテーテル治療は不向きと考えられてきましたが、より使いやすいカテーテル類の開発、技術の進歩もあり1990年代後半から治療数は増加傾向にあります。当院ではそのころから脳血管内治療に携わる医師が治療をしています。

脳血管内治療の方法

一般的には足の付け根の動脈(大腿動脈)から直径2-3mmほどのカテーテル(ガイディングカテーテル)を頚部まで導き、血管の中に造影剤という薬を流してX線(レントゲン)透視を行い、血管の形や走行を確認しながら目的の部位までガイディングカテーテルの中を通したマイクロカテーテルなどを誘導し治療を行います。

脳血管内治療のメリットと日本の現状

通常の手術とは違って頭や首を切開したり、骨を外したりすることなく治療が行えるため、患者さんにとっては肉体的ストレスの少ない治療で入院期間も短い治療です。欧米ではすでに脳動脈瘤(りゅう)の治療の6〜8割は脳血管内治療により治療されています。
しかしながら日本では,2015年6月現在で、認定医がまだ947人ほど(うち指導医は234人)であり、すべての脳神経外科施設に専門医がいる状況ではなく、経験の豊富な医師が少ないという現状もあり、欧米ほどの比率には至っていないようです。

さまざまな脳血管内治療の紹介

1. 脳動脈瘤(どうみゃくりゅう)に対する脳血管内治療

a.未破裂脳動脈瘤
動脈瘤の中に髪の毛よりも細くて柔らかいプラチナ製のコイルを留置して瘤の中を充填し、出血を予防します。
術後は翌日から歩行や食事は可能で、入院期間は約1週間ほどです。

b. 破裂脳動脈瘤 (くも膜下出血)(図3)
くも膜下出血を起こす原因のほとんどが脳動脈瘤の破裂によるものです。脳動脈瘤は破裂しても一旦は血栓がかさぶたのように破裂部をおおい、出血が仮止になっていることが多いのですが、このかさぶたは容易にはがれやすく、はがれてしまうと動脈瘤の再破裂(再出血)をおこし、状態はより不良となります。
動脈瘤が再破裂してしまうと30~50%の確率で命を落とすため、早期に再破裂(再出血)予防を行うことが必要です。

2002年に英国を中心とした研究で破裂脳動脈瘤に対して開頭術(クリッピング)、血管内治療(コイル塞栓術)のいずれかを受けた患者さんの術後の状態を比較したところ、血管内治療を受けた患者の方が生命予後、生活の質ともに良好であったという結果が報告されました。以後、世界では破裂脳動脈瘤に対する初期治療としては血管内治療が選択される比率が増えています。わが国でもコイル塞栓術が増える傾向にありますが,日本ではクリッピング術の成績が良いとされていることもあり、個々の症例において開頭術、血管内治療のどちらがより適した治療であるかを検討することにより、患者さんにより結果を提供できると考えられます。

2.頚動脈狭窄症及びその治療

高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病、喫煙などにより全身に動脈硬化ならびに動脈の狭窄(狭くなること)が起こりやすくなります。頭頚部血管で、もっとも動脈硬化ならびに狭窄が起こりやすいのは頚動脈であり、この部位での狭窄にできた血栓やプラークが原因で、手足の麻痺や言語障害といった脳梗塞(のうこうそく)の症状を来すことがあります。このような頚動脈狭窄症の治療にも脳血管内治療は有用です(図4)。

頚動脈ステント留置術は2007年からは保険で認められた治療となり、急速に普及しつつあります。

3. 急性期脳梗塞に対するカテーテルを用いた再開通治療
(局所線溶療法,血管形成術,血栓回収療法)

脳の太い血管が詰まってしまったが、脳がまだ完全に脳梗塞になっていないと判断される、限られた方のみが受けられる治療です。

カテーテルから血栓溶解薬を注入したり、バルーン(風船)付きのカテーテルで血栓を破砕したりする治療が1980年代後半から行われてきました。2010年から、急性期脳梗塞に対して 血栓回収カテーテルが保険認可され、2011年には血栓吸引カテーテルも承認されました。2015年には,治療の有効性を示す論文が複数発表され,脳梗塞治療への必要性が増しています。

脳の太い血管が詰まって脳梗塞症状を呈している場合には一定の時間内に再開通しなければ良い経過にはならないため,脳梗塞がおこってから数時間の早期に治療を検討します(図5)。

4. 脳動静脈奇形の塞栓術

脳の中で異常な動脈と静脈が毛細血管を介さず直接つながっており、出血やけいれんを起こして発症することの多い病気です。脳動静脈奇形は、毎年2~3%前後の確率で出血をおこすと考えられています。脳動静脈奇形の治療方法としては、開頭による脳動静脈奇形摘出術、脳血管内治療(塞栓術)、定位放射線治療があります。血管内治療は開頭手術や定位放射線治療の前に用いられ、コイルを留置したり液体塞栓物質を流して血液流入量を減らしたり、あるいは奇形そのものの体積を小さくして、開頭手術や定位放射線治療をより安全かつ効果的に行えるようにする目的で導入されます(図6)。

5. 硬膜動静脈瘻の塞栓術

脳を守る硬膜(こうまく)周囲で異常な動脈と静脈が直接つながり、脳出血や脳症状、けいれんなどをおこす病気です。
病変の場所によっては、目が充血したり、突出したり、「ザーザー」という心臓の拍動に同期した耳鳴りで発見されることもあるため眼科や耳鼻科に受診された後に紹介される方もいます。脳血管内治療で病気の動脈あるいは静脈経由に病変部を閉塞することで、異常な流れを弱らせます(図7)。

6. 脳腫瘍の塞栓術

大きな出血をしやすい脳腫瘍には、栄養血管を閉塞させることにより、開頭術中の出血を減らすことにも有用です(図8)。